関節リウマチ市民公開講座記録集

知って! 伝えて! 試して! 生活も趣味も仕事もあきらめない
やりたい! できた! をふやしませんか?

2022年5月28日 オンライン開催
株式会社QLife・ヤンセンファーマ株式会社 共催
公益社団法人 日本リウマチ友の会 後援

【第2回】運動療法の実践~あなたにあった装具・運動を取り入れよう~

多田 昌弘先生(大阪市立総合医療センター 整形外科 医長/リウマチセンター 副センター長)
石橋 良先生(高遼会病院 リハビリテーション科 部長、理学療法士)
池嶋 香先生(清恵会病院 作業療法科)

関節リウマチの治療では、そのときの症状や目標によって自分にあった選択肢を主治医の先生と相談しながら決めていきます。生活や趣味、仕事をあきらめずに自分らしく過ごすためには、どのように関節リウマチと付き合っていけばよいのでしょうか。
このほど、「知って! 伝えて! 試して! 生活も趣味も仕事もあきらめない やりたい! できた! をふやしませんか?」をテーマに関節リウマチのWebセミナーが全3回で開かれました。
(共催:株式会社QLife、ヤンセンファーマ株式会社、後援:公益社団法人 日本リウマチ友の会)

第2回「運動療法の実践~あなたに合った装具・運動を取り入れよう~」(2022年5月28日〈土〉開催)では、リウマチ専門医によるご講演や、お家で簡単に行うことができる運動の紹介、医師、理学療法士、作業療法士によるパネルディスカッションを行いました。

講演
「関節リウマチにおけるサルコペニア予防」

多田 昌弘先生(大阪市立総合医療センター 整形外科 医長/リウマチセンター 副センター長)

関節リウマチは、治療の進歩により、生活の質を維持して健康な方と変わらない生活を送ることが可能になってきています。それに伴い、日本リウマチ学会の『関節リウマチ診療ガイドライン』では、治療目標に「QOL(生活の質)の最大化」を目指すことが掲げられています。
関節リウマチの治療では、薬物療法、リハビリテーション、手術、ケアの4つを柱としたトータルマネジメントを行うことが重要です。
このうち、リハビリテーション・運動は、リウマチ患者さんの症状によって、個別化が必要です。できる運動とできない運動があることを理解していただきたいと思います。
関節リウマチがあると、骨粗しょう症になりやすいことにも注意が必要です。骨粗しょう症の患者さんは骨折のリスクが高くなります。また、関節リウマチ患者さんは、筋肉量の低下と筋力もしくは身体機能の低下が高齢期にみられる「サルコペニア」1)にもなりやすいことがわかっています2)。なお、一般人口におけるサルコペニアの有病率は8~9%3)、施設入所高齢者では14~33%4)という報告があります。

サルコペニアとは

サルコペニア診療ガイドライン作成委員会 編.サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂.ライフサイエンス出版,2020,p2-3.
Tada M, et al. Int J Rheum Dis. 2018;21(11):1962-1969.
Yoshimura N, et al. Osteoporos Int. 2017;28(1):189-199.
を基に作成

骨粗しょう症とサルコペニアは関連しあっており、2つの病態が合わさると、転倒・骨折のリスクがさらに増えてしまいます5)。転倒・骨折を予防するためには、骨粗しょう症の治療だけでなくサルコペニアの対策も必要です。コロナ禍の制限によって外出ができず、筋肉量が減っている人が多くいらっしゃるので、筋肉量を取り戻していかなければなりません。

骨粗鬆症とサルコペニアの相互作用

一生懸命に運動をして、筋肉量が増えても休むと筋肉量は減ってしまいます。「コツコツ(骨骨)、貯金(筋)!」をキーワードに、運動は少しずつでも継続することが大切です。

文献

  1. 1)サルコペニア診療ガイドライン作成委員会 編.サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂.ライフサイエンス出版,2020,p2-3.
  2. 2)Tada M, et al. Int J Rheum Dis. 2018;21(11):1962-1969.
  3. 3)Yoshimura N, et al. Osteoporos Int. 2017;28(1):189-199.
  4. 4)Cruz-Jentoft AJ, et al. Age Ageing. 2014 ;43(6):748-759.
  5. 5)Hirschfeld H P, et al. Osteoporos Int. 2017;28(10):2781-2790.

石橋 良先生(高遼会病院 リハビリテーション科 部長、理学療法士)

椅子に座ってテレビを観ながらできる下肢の運動を紹介します。なお、運動は、無理をしない程度で行うことが重要です。1日に1~3セットを目安とするとよいと思います。1セットあたりの回数は、ご自身で実施してみて運動したところが少し疲れる程度に決めていただくとよいでしょう。

【よい姿勢のとり方】
ご用意いただくもの:バスタオル2枚
① 1枚を三つ折りに畳む
② 畳んだタオルを椅子の後ろ側に詰めて置き、その上に座る
③ もう1枚のタオルを少し丸めて、腰のあたりに当てる

石橋先生:
お尻に敷いたタオルが骨盤を斜め前に持ち上げ、背中のタオルが背骨を後ろから押し上げます。後ろにもたれて座るだけで背筋が伸びた状態になり、よい姿勢をとることができます。
椅子に座って運動を行う際は、よい姿勢をとることも重要です。バスタオルが2枚あれば簡単に行うことができますので、ぜひ試してください。

よい姿勢のとり方

【立ち上がり方】
① 背筋が伸びている状態にする
② 膝を手前に下げる
③ 手は膝の上に軽くつく
④ おじぎするように体を前に倒しながら、斜め上に立つように意識する
⑤ お尻が浮き上がってくるように楽に立つことができる

石橋先生:
骨盤が起きているよい姿勢をとり、重心の移動を行うと、足や関節に負担をかけずに立ち上がることができます。
テーブルがある場合は、手に重心を乗せると、より楽に立ち上がることが可能です。ただし、握りこぶしを作ってその上に体重を乗せる、手首を曲げると関節に痛みが出ることがあります。体の面を使うよう注意してください。
※「悪い例」の写真をご参照ください。

立ち上がり方
立ち上がり方
立ち上がり方

テーブルを使用する場合
手首に負担がかからないよう、腕全体を使う(前腕を面で使い、腕にも重心をかけるとより楽に立ち上がることができる)

テーブルを利用する場合
テーブルを利用する場合
テーブルを利用する場合
テーブルを利用する場合

※悪い例(握りこぶしの上に体重をかける、手首をぐっと曲げると関節に痛みが出る)

悪い例
悪い例

【足の運動1:前太ももを鍛える】
ご用意いただくもの:バスタオル2枚、ハンカチや小さめのタオル1枚
① 【よい姿勢のとり方】を参考にタオルを置き、椅子に座る
② 片方の膝を伸ばす
③ もとの位置に戻す
④ 反対側の膝を伸ばす
⑤ もとの位置に戻す
⑥ 左右の膝で曲げ伸ばしを繰り返し行う

石橋先生:
前太もものトレーニングです。膝を伸ばしたときにつま先を天井に向けてあげると、より前太ももに力が入りやすくなるので、意識してみましょう。
ハンカチやタオルを膝の間に挟んで落とさないように膝を上げ下げすると、太ももの内側にも力が入ります。太ももの内側の筋肉は、膝の安定に役立ちます。

足の運動1:前太ももを鍛える
膝の間にハンカチや小さめのタオルを挟む
足の運動1:前太ももを鍛える
足の運動1:前太ももを鍛える

【足の運動2:裏ももの筋肉を鍛える】
ご用意いただくもの:ゴムバンド(ひもやリボンなどを輪にしたもので代用が可能)
① 両足を輪っかにくぐらせる
② 片足の膝を曲げて後ろに引く
③ もとの位置に戻す
④ 繰り返し行う

石橋先生:
ゴムバンドの位置は、低くすると負荷が強くなります。反対に、位置を高くすると負荷が弱まりますので、ご自身で調整して行ってみてください。

足の運動2:裏ももの筋肉を鍛える
足の運動2:裏ももの筋肉を鍛える
足の運動2:裏ももの筋肉を鍛える

【足の指先の運動】
ご用意いただくもの:タオル1枚
① タオルを広げ、床に敷く
② 椅子に座り、タオルの上に両足をのせる
※素足のほうが行いやすい
③ 足の指を曲げ、床に敷いたタオルをたぐり寄せるように動かす

石橋先生:
足の甲を使って握り込むように力を入れてください。初めは難しいかもしれませんが、継続すると、徐々にできるようになることが実感できると思います。

足の指先の運動
足の指先の運動
足の指先の運動

池嶋 香先生(清恵会病院 作業療法科)

上肢の運動を紹介します。今回ご紹介する運動で大切なのは、「息を止めないこと」、「無理をしないこと」、「痛いと感じたらやめること」の3つです。息を吸うのか吐くのかは、楽なほうで構いません。難しい方は、1、2、3と声に出して数を数えながら運動すると、息を止めることがなくなります。
これから紹介する運動は、1日に5~10回程度、その日の調子に合わせて繰り返し行ってみてください。

【肩甲骨の運動(上下)】
① 肩を引き上げて耳に近づけ、肩甲骨を上に上げる
② 3秒数えたら、ストンと落とす
③ 肩を床に近づけるように引き下げる。3秒数える
※肩甲骨を下げたときに、鎖骨が下に引っ張られている感覚があるとよい

池嶋先生:
肩甲骨は、腕の動きや姿勢をよくするための大切な骨です。普段私たちは、手を前で使うことが多いため、肩が内向きになり、背中が丸くなりやすいのです。左右に広がりがちな肩甲骨を真ん中に寄せるように動かすと、姿勢がよくなります。関節リウマチの患者さんに限らず、大人の方どなたでも有効な運動です。ご家族でぜひ、一緒にやってみてください。

肩甲骨の運動(上下)
肩甲骨の運動(上下)

【肩甲骨の運動(左右)1:肩甲骨を開く】
① 腕を前に伸ばす
② 姿勢を正し、手を更に前に伸ばす
③ 3秒数えたら腕を戻す

肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)

【肩甲骨の運動(左右)2:肩甲骨を寄せる】
① 手のひらを上に向けて肘を90度に曲げ、脇を締める
② 背中にしわを寄せるように、両肘を左右に開く
③ 3秒数えたら緩める

池嶋先生:
肩甲骨が動いていることを感じながら行ってみてください。

肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)

【肩甲骨の運動(斜め)】
① 腕を斜め上に伸ばし、万歳の姿勢をとる
② 姿勢を正して、万歳の姿勢からさらに手を上に伸ばす
③ 腕を戻す
④ 手の甲を背中にまわす
⑤ 3秒数えたら緩める

池嶋先生:
手の甲を背中にまわすのがつらい方は、腰に手を添えていただいても構いません。ゆとりがある方は、肘をさらに後ろに引いてみてください。
それでもゆとりがある方は、後ろで左手の指を右手で握りながら、右に引っ張ってみてください(※反対側も同様に)。

肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)

(ゆとりがある方)

肩甲骨の運動(左右)
肩甲骨の運動(左右)

【肘の運動】
① 肘をしっかりと曲げる
② 肘をしっかりと伸ばす

池嶋先生:
日常生活では肘を曲げる動作のほうが多く、完全に伸ばす機会は多くありません。しっかり肘を伸ばすことを意識して行ってみましょう。

肘の運動
肘の運動

【前腕の運動】
① 肘を90度に曲げて、脇を締める。手のひらは上に向け3秒、下に向け3秒数える
② 手のひらを上に向け、肘を伸ばして手首を反らし、指も伸ばす。腕の内側を伸ばす

池嶋先生:
②の動きでは、右手を伸ばしているときは、左手で右手の指を持ち、引くように補助をしたり(※反対の手も同様に)、テーブルに手をつけて伸ばしたりしてもよいでしょう。
気持ちがよいと感じるくらいまで伸ばしてみてください。

前腕の運動
前腕の運動

【手首の運動】
ご用意いただくもの:ゴムバンド
① 椅子に座る
② (準備運動)テーブルに肘をつき、内回り、外回り5回ずつ手首を大きくまわす
③ ゴムバンドの内側に親指以外の指を通し、親指で外側から挟み込む。肘をつき、指は軽く曲げる
④ 手首の外側にしわを寄せるように手首を反らし、3秒数える

手首の運動
手首の運動
内回り
手首の運動
外回り
手首の運動
手首の運動
しわが寄るように手首を反らせる

池嶋先生:
ゴムバンドは、100円ショップでも手に入れることが可能です。お好みの強度のゴムバンドで行ってみてください。

【指の運動(握る)】
ご用意いただくもの:スポンジ
① (準備運動)3~5秒程度、思い切り握り、緩める
② 指を伸ばして、中指を中心として指と指の間を広げるように開き、3秒数え、緩める
③ 手首の外側にしわを寄せるように手首を反らし、3秒数える

池嶋先生:
スポンジは、台所用のもので大丈夫です。お好みの硬さや触り心地のものを使用してください。握りやすい大きさに切って使ってもよいでしょう。

指の運動(握る)
指の運動(握る)
指の運動(握る)
指の運動(握る)
指の運動(握る)

【指の運動(つまむ)】
ご用意いただくもの:スポンジ
① スポンジを立てて置き、親指と人差し指でつまむ。3秒数え、緩める
② 親指と中指でつまむ。3秒数え、緩める
③ 親指と薬指、親指と小指も同様に行う

指の運動(つまむ)
指の運動(つまむ)

【指の運動(挟む)】
ご用意いただくもの:スポンジ
① 手のひらをテーブルに置き、人差し指と中指の間にスポンジを置く
② 中指を人差し指に寄せるように動かし、スポンジを挟む
③ 中指と薬指の間にスポンジを置く
④ 薬指を中指に寄せて、スポンジを挟む
⑤ 小指も同様に行う

池嶋先生:
やりづらいと感じる方は、できる範囲で行いましょう。熱感や痛み、腫れがある場合は控えてください。運動をして痛みが続いた場合は、翌日の運動は回数を減らして行ってください。

指の運動(挟む)
指の運動(挟む)

【複合した運動】
ご用意いただくもの:食品ラップの芯などを利用した棒(ペンなどでも代用可能)
① 棒を横から両手で持ち、前に伸ばす
② 肘を曲げて、棒を胸に近づける
③ 腕を上に伸ばしてから、胸に近づける
④ 棒を後ろで持ち、左右に動かす
⑤ 棒を前で持ち、手首を動かす
⑥ 2本の指で棒をつまんでいく(人差し指から小指まで)

複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動
複合した運動

池嶋先生:
運動のやる気を高めるコツは、目標を決めることです。また、運動を日課にすることです。朝食後、入浴前など、運動を行う時間帯を決めて、同じ場所で行うようにすると、毎日続けやすくなると思います。

パネルディスカッション

多田 昌弘先生(大阪市立総合医療センター 整形外科 医長/リウマチセンター 副センター長)
石橋 良先生(高遼会病院 リハビリテーション科 部長、理学療法士)
池嶋 香先生(清恵会病院 作業療法科)

石橋先生
今回紹介した運動を行うことはお勧めですが、リウマチには炎症の活動期・非活動期があります。ご自身の体調と相談しながら運動するとよいと思います。

池嶋先生
毎日実施しやすく、モチベーションを保ちやすいものとしては、いろいろな体操を紹介するテレビ番組があります。テレビ番組ではさまざまな運動を紹介していますので飽きずに続けられると思います。

多田先生
日によって痛いところが変わる、天気によって痛みが出る患者さんもいます。無理をしないで、毎日継続できるぐらいの強度で運動することが重要です。

池嶋先生
自助具としては、力を入れずにペットボトルやビンのふたを外すことができる便利グッズなど、さまざまな道具が販売されています。100円ショップで手に入る便利グッズもあります。また、ご自身で使いやすい自助具を手作りすることもひとつの方法です。
便利なグッズや自助具について、ご提案ができる場合もありますので、日々の生活で困っていることがあればぜひ相談してください。
また、公益社団法人 日本リウマチ友の会のホームページで、さまざまな自助具を紹介していますので、参考にしてみてください。

多田先生
装具を使用する際は、医師の処方が必要になりますので、主治医の先生にご相談してみてください。

池嶋先生
何歳になっても筋肉は鍛えられるというデータもあります。継続が大切ということを念頭におき、運動を行ってください。

石橋先生
自身に合った運動を長く続けることが大切です。一緒に運動をしていきましょう。

多田先生
関節リウマチだから何かをあきらめる、何かを犠牲にする必要はなくなってきています。運動療法は、モチベーションを保ちながら続けることが重要です。関節の状態は患者さんそれぞれで異なりますので、主治医の先生や自身の体と相談して、続けてください。

tomonowa