関節リウマチ患者さん向け情報

関節リウマチWebセミナー 一緒に体を動かしてみよう!

2023年10月 オンライン開催
株式会社QLife、ヤンセンファーマ株式会社 共催
公益社団法人 日本リウマチ友の会、特定非営利活動法人 膠原病・リウマチ・血管炎サポートネットワーク 後援

多田 昌弘 先生(大阪市立総合医療センター 整形外科 医長/リウマチセンター 副センター長)
松本 佳也 先生(大阪公立大学 生活科学部 食栄養学科 准教授)
谷本 道哉 先生(順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授)

関節リウマチの治療の進歩によって、多くの患者さんが関節リウマチを抱えていても、仕事や趣味、やりたいことを叶え、自分らしい生活を送れるようになってきました。
2023年10月1日(日)に開催された関節リウマチWebセミナー「一緒に体を動かしてみよう!」では、関節リウマチ患者さんに知ってほしい筋力低下の予防や食事の工夫、効果的な運動方法について、3名の先生からアドバイスをいただきました。
(共催:株式会社QLife、ヤンセンファーマ株式会社、後援:公益社団法人 日本リウマチ友の会、特定非営利活動法人 膠原病・リウマチ・血管炎サポートネットワーク)

講演1
関節リウマチと筋肉~サルコペニア予防を考える~

多田 昌弘 先生(大阪市立総合医療センター 整形外科 医長/リウマチセンター 副センター長)

関節リウマチは関節に痛みや腫れが生じる病気で1)、これらの症状により日常生活に支障をきたすことがあります。しかし最近では治療の進歩により、多くの患者さんが関節リウマチであっても趣味や仕事などを健康な人と変わらない社会生活を送れるようになってきました。ただそのためには、薬物療法やリハビリテーションに加え、セルフケアも大切です。

日常生活におけるセルフケアの目的の一つは、転倒と骨折の予防です。
関節リウマチ患者さんは、転倒が多いことが知られています。転倒は、筋力、筋機能、バランス機能の低下によって起こりやすくなるので、これらの低下を防ぐようにします。また、立ち上がるときによろめいたり、段差につまずいたりしたときに転倒しやすいので、こういった場面では注意が必要です。

転倒リスクが高い関節リウマチ患者さんは、転倒による骨折リスクも高くなります。
大腿骨近位部(足の付け根)の骨折は寝たきりになる原因の一つですが、関節リウマチ患者さんは関節リウマチでない人に比べ、約45倍も大腿骨近位部の骨折が多いと報告されています2)

関節リウマチ患者さんにおける転倒・骨折は、サルコペニアに関連していると考えられます。 サルコペニアとは、高齢期にみられる骨格筋量の低下と、筋力もしくは身体機能が低下した状態のことです3)。表のように低骨格筋量、低筋力、低身体機能により診断されます4)

サルコペニア診断基準(アジア・サルコペニア・ワーキンググループ 2019)

サルコペニア診断基準(アジア・サルコペニア・ワーキンググループ 2019)

Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc 2020;21(3):300-307. より作成

診断基準の骨格筋量などの測定には機器が必要ですが、サルコペニアを自分で簡単にチェックできる方法に「指わっかテスト」があります5)。両手の人差し指と親指で輪を作り、利き足ではないふくらはぎの一番太い部分にあてます。隙間ができる場合にはサルコペニアの可能性が高いと考えられます。
運動機能の検査法として知られる「開眼片脚起立テスト」も活用できます。目を開けた状態で片足を5cm上げ、立っていられる時間を測定します。立っていられる時間が15秒未満の場合は運動器不安定症とされます6)。運動器不安定症は、高齢者で歩行・移動能力の低下のために転倒しやすいなど日常生活での障害を伴う疾患をいいます7)

サルコペニア 簡単チェック方法

サルコペニア 簡単チェック方法

Tanaka T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2018;18(2):224-232.より作成
日本整形外科学会:症状・病気をしらべる、「運動器不安定症」.
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html(2023年10月31日閲覧)より作成

関節リウマチ患者さんは筋肉量が少なく、サルコペニアになりやすいことがわかっています8)。とくに、罹病期間が長い、疾患活動性(病気の勢い)が高い、身体機能が低い、炎症反応が高い、リウマチ因子が陽性の関節リウマチ患者さんはサルコペニアになりやすく、注意が必要です9)

サルコペニアの予防には、運動と栄養が最良の薬といわれています。継続的な運動と、バランスのよい食事により筋肉を増やすことが大切です。

【参考】

  1. 1)日本リウマチ学会ホームページ:患者・一般のみなさま リウマチ性疾患と検査、薬剤について「関節リウマチ(RA)」https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/kansetsu-riumachi/ (2023年10月30日閲覧)
  2. 2)Lin YC, et al. Osteoporons Int 2015;26(2):811-817.
  3. 3)サルコペニア診療ガイドライン作成委員会, 編. サルコペニア診療ガイドライン2017年版 一部改訂. ライフサイエンス出版, 2020, p2-3.
  4. 4)Chen LK, et al. J Am Med Dir Assoc 2020;21(3):300-307.
  5. 5)Tanaka T, et al. Geriatr Geronto Int. 2018;18(2):224-232.
  6. 6)サルコペニア診療実践ガイド作成委員会, 編. サルコペニア診療実践ガイド. ライフサイエンス出版. 2019, p26-27.
  7. 7)日本整形外科学会:症状・病気をしらべる「運動器不安定症」. https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/mads.html(2023年10月31日閲覧)
  8. 8)Tada M, et al. Int J Rheum Dis. 2018;21(11) :1962-1969.
  9. 9)Li TH, et al. Semin Arthritis Rheum. 2021;51(1):236-245.

講演2
筋肉をつけるための食事・栄養面のポイント

松本 佳也 先生(大阪公立大学 生活科学部 食栄養学科 准教授)

関節リウマチ患者さんは、関節の炎症・痛みの影響で身体活動量が少なく1)、さらに筋肉量も少ない傾向があり2)、筋肉をつけるための食事・栄養が重要になります。

食事・栄養において、まず意識すべきことは「エネルギー摂取量」です。
エネルギーは体を動かしたり、生命を維持するために必要不可欠です。エネルギーが不足すると、体の中ではそれを補おうとして筋肉を分解してエネルギー源を作り出すため、筋肉量が減ってしまいます。筋肉量が減らないようにするには、十分なエネルギー摂取が必要です。

エネルギー摂取量の過不足は体重測定で確認できます。
食事からのエネルギー摂取量と身体活動によるエネルギー消費量のバランスによって体重は変化します。炎症などの疾患による負荷もエネルギー消費を増やす要因になります3)。エネルギーの摂取量と消費量のバランスが取れていれば体重は維持され、摂取量が少ない場合には体重が減少します。
基本的には毎日、体重測定を行うようにしましょう。

エネルギー量と体重の関係

エネルギー量と体重の関係

筋肉をつけるため、エネルギー摂取量と同じように重要なのが「タンパク質」です。
一般的な高齢者のサルコペニア予防には、体重1kgあたり1.2~1.5gのタンパク質が必要(1日あたりの必要量)とされています4)。つまり体重50kgの人なら、1日に60~75g必要ということになります。国民健康・栄養調査によると日本人の平均タンパク質摂取量はこの必要量を下回っており5)、必要量と摂取量の差は15g程度です。
あなたのタンパク質摂取量を平均値と仮定すると、これまでよりも「タンパク質量を1日15g増やす」を一つの目安にすることで、筋肉をつけることができるでしょう。

では、タンパク質摂取量を増やす方法を食事の具体例を示しながら紹介します。
朝食例:
トーストとコーヒーだけではタンパク質量は4.6gです。コーヒーをカフェオレに、トーストをチーズトーストに変更し、ゆでたまごを追加すると、タンパク質量が3倍以上の17.5gに増えます。
昼・夕食例:
麺類については、きつねうどんはタンパク質量10.6gですが、ミートソーススパゲッティは23.7gです。麺類は具材が多いものの方がタンパク質も多く含まれているので、外食の際はなるべく具材の多い麺類を選ぶようにしましょう。
主食、主菜、副菜のそろった定食には、タンパク質が20g以上含まれている場合が多いです。タンパク質量が多くなるよう、主菜の肉や魚の量を80~100gにすることがポイントです。

タンパク質を増やす食事の工夫例
朝食

朝食

昼・夕食

昼・夕食
昼・夕食
昼・夕食

筋肉をつけるためには、食事で主食と主菜でエネルギーとタンパク質をしっかり摂ることが大切です。欠食は避けてください。また、三食でも不足する場合は間食で補うことも考えるとよいでしょう。
なお、タンパク質量が増えるよう食事内容を大きく変える場合には、病状や治療薬に影響することもありますので、必ず主治医に相談してください。

【参考】

  1. 1)Roubenoff R, et al. J Clin Invest. 1994;93(6) :2379-2386.
  2. 2)Okano T, et al. Mod Rheumatol. 2017;27(6):946-952.
  3. 3)Roubenoffet al. J Clin Invest 1994.
  4. 4)サルコペニア診療実践ガイド作成委員会, 編. サルコペニア診療実践ガイド. ライフサイエンス出版,2019, p43-47.
  5. 5)厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査.
    https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf(2023年11月9日閲覧)

講演3
手軽に、無理なく、楽しくできる効果的な筋肉体操

谷本 道哉 先生(順天堂大学 スポーツ健康科学部 先任准教授)

関節リウマチ患者さんは、慢性的な全身性炎症の影響で動脈硬化リスクが高く、メタボリックシンドローム(以下、メタボ)になりやすいといわれています1)。さらに、関節の痛みにより身体活動が低下しがちであることも、メタボのリスクとなります。
関節は動かさずにいると、徐々に動かしにくくなり、関節リウマチの状態も悪化する悪循環に陥ってしまいます。関節機能の維持、メタボ予防のために日頃から運動するようにしましょう。ただし、運動するときには、無理のない範囲で関節を動かすなどの注意が必要です。
関節リウマチ患者さんにおすすめしたい運動法を3つ紹介します。

おすすめしたい運動

  • 1. 関節をゆっくり大きく動かす!「超ラジオ体操」
  • 2. 関節負担の少ない筋トレ法「スロートレーニング(スロトレ)」
  • 3. メタボ対策の王道は有酸素運動「リュックとスニーカーでBrisk walk」

1つめの「超ラジオ体操」は、一般的なラジオ体操に「ゆっくり」「大きく動かす」「動きを丁寧に」といった工夫を加え、特に背骨まわりをより効果的に動かせるようにしたものです。超ラジオ体操で普段から快適に動ける体を作ります。
2つめの「スロートレーニング(スロトレ)」は、軽めの負荷でもゆっくりと、力を入れっぱなしの状態で動作を行うことで、筋肉を効果的に増やすトレーニング法です。関節への負担が少なく行いやすい運動です。
そして3つめの「リュックとスニーカーでBrisk Walk※※」は、しっかり腕を振って速めに歩くというものです。

これらを取り入れて、無理なく、楽しく運動を続けましょう。

※メタボリックシンドローム:内臓肥満に高血圧、高血糖、脂質代謝異常が組み合わさり、心臓病や脳卒中などになりやすい状態のこと。
※※Brisk Walk:元気よくきびきびと歩くwalking方法

筋肉体操デモンストレーション

1.超ラジオ体操

「超ラジオ体操」は、一般的なラジオ体操に「ゆっくり」「大きく動かす」「動きを丁寧に」といった工夫を加え、特に背骨まわりをより効果的に動かせるようにしたものです。
運動を続ければ必ず体は変わりますし、気持ちも上向きになってくると思いますので、一緒にがんばりましょう。
※ご自身にどの程度の運動が適しているのか、関節の状態をレントゲン検査などで確認し、主治医の先生とよく相談してご判断ください。

1)腕を上下に伸ばす運動のアレンジ
回数:2~3回
①両手を組んでうんと前に出し、背中を丸めます。
②てのひらを返して両腕を上にあげて、伸びを反らします。
③両手を後ろから大きく下ろします。
2)体を前後に曲げる運動
回数:2~3回
①前に倒すときは、しっかりと下を向きます。手を体の前にしっかり伸ばすと背中がよく丸まります。
②後ろに反るときは、しっかりと上を向きます。手は腰の横ではなく後ろに置くと、背中がよく反ります。
3)体を横に曲げる運動のアレンジ
回数:2~3回
①手を組んで伸びをしたところから、右手で左手を引っ張って背中をしっかり横に曲げます。お尻は手と反対側の左側にぐいっと突き出すと、よく曲がります。
②反対側にも同じように背中を曲げます。
4)屈伸運動
回数:2~3回
膝を丁寧に大きく動かす運動です。
できる範囲で大きく動かすことで関節内の循環がよくなります。痛みのない範囲で、ゆっくり丁寧に、しっかり大きく動かしていきましょう。
①ゆっくりしゃがみ、ゆっくり立ちあがります。痛みのない範囲で、できるかぎり深くしゃがみましょう。
②伸ばすときは手で膝をぐっと押して、足を完全に伸ばしきれるようにします。

2.スロートレーニング(スロトレ)

1)スクワット
回数:10回程度を目安にできる範囲で
スロートレーニングの動きでゆっくりと丁寧に行うスクワットです。
痛みのない範囲で、できるだけしっかり深くしゃがむことで、太ももとお尻の筋肉を一緒に鍛えましょう。
※ご自身にどの程度の運動が適しているのか、関節の状態をレントゲン検査などで確認し、主治医の先生とよく相談してご判断ください。
※使用するもの(負荷を下げる場合):テーブル(洗面台などの安定した台でも可)

①腕を交差させて胸の前に置き、背すじを伸ばして、つま先を少し外に向けます。
②上体を前傾しながらお尻をゆっくり引いて、胸が膝に付くぐらいまで、痛みのない範囲で、できるだけしっかり深くしゃがみます。
③ゆっくり立って、立ち上がりきらずに、またしゃがみます。
負荷が強すぎる場合は:テーブルに手を置いて、テーブルを手で押しながら行います。

2)テーブルプッシュアップ
回数:10回程度を目安にできる範囲で
テーブルを使って行う腕立て伏せです。ご自身の状態に合わせて強度の調整ができますので、ご自宅にあるテーブルを使って、一緒に胸、肩、二の腕の筋肉を鍛えましょう。
※注意:人工肘関節が入っている患者さんは、実施前に必ず主治医にご相談ください。負荷によっては破損に繋がる可能性があります。
※ご自身にどの程度の運動が適しているのか、関節の状態をレントゲン検査などで確認し、主治医の先生とよく相談してご判断ください。
※使用するもの:テーブル(洗面台などの安定した台でも可)

①大きく動作するため、手幅は肩幅よりやや広げてテーブルの手前側に手をつきます。テーブルのはじに親指をかけると滑りません。
②体を斜めにして胸がしっかりテーブルに付くまで腕を曲げて体を下げます。
③ゆっくり体を上げていき、腕を伸ばしきらずに動作を繰り返します。
負荷が強すぎる場合は:片足を前に出すと負荷が下がります。
物足りない方は:足を後ろに引いて行うと負荷が上がります。

3)レッグレイズ
回数:10回程度を目安にできる範囲で
椅子に座って足を上げて行う腹筋運動です。
座ったままできる運動で、ご自身の状態に合わせて強度を調整することもできますので、無理のない範囲で一緒に頑張りましょう。
※ご自身にどの程度の運動が適しているのか、関節の状態をレントゲン検査などで確認し、主治医の先生とよく相談してご判断ください。
※使用するもの:椅子

①椅子の前のほうに座り、椅子の後ろ側をしっかりつかみます。足を少し前に出して、少し床から浮かせます。
②足をゆっくりできるだけ高く上げます。
③足を丁寧に下ろします。足をおろしたとき、かかとは床に付けないようにします。
負荷が強すぎる場合は:膝を曲げると負荷が下がります。
物足りない方は:足を遠くに出して膝を伸ばしたまま、可能な限り高くあげます。
④レッグレイズのあとは腹筋がつりやすくなるため、ストレッチをしましょう。椅子から立ち上がって腰の後ろに手を当て上を向き、ぐーんと10秒背中を反らします。もっとしっかり腹筋を伸ばしたい場合は、床にうつ伏せになって背中を反らすのもよいでしょう。

4)バックエクステンション
回数:10回程度を目安にできる範囲で
椅子に座ったまま行う運動で、背筋の脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)を鍛えます。

※ご自身にどの程度の運動が適しているのか、関節の状態をレントゲン検査などで確認し、主治医の先生とよく相談してご判断ください。
※ごくまれに、めまいやたちくらみ(起立性貧血)が起こる方がいらっしゃいます。変化を感じたときは無理せずに休みましょう。
※使用するもの:椅子

①椅子の前のほうに座り、腕を交差させて胸の前に置き、足を開いて座ります。
②上半身を大きく前に倒し、おへそをのぞき込むようにして背中を丸めます。
③まずは顔だけを上げます。そのまま背中を反らして上体をゆっくり起こしますが、起こしきらないようにします。
負荷が強すぎる場合は:手を膝に置いて行うと負荷が下がります。
物足りない方は:バンザイをすると負荷が上がります。

【参考】

  1. 1)Suganami T, et al. J Leukoc Biol. 2010;88(1):33-39.

Q&Aセッション

関節リウマチの症状に関すること

多田先生
手足の指、手首など小さい関節からの発症が多いです1)。高齢者の場合は、このほかに膝や股の関節といった大きい関節から発症することもあります2)

多田先生
温めることで筋肉も関節もほぐれるという点ではよいと思います。

谷本先生
ほぐれるという点ではよいと思います。ただ、関節内に血管はないので、温めることで周辺の血流はよくなりますが、関節内の循環もよくなるという効果は期待しにくいです。関節が硬くならないようにするためには、動かすことも、温めることも、どちらも大切です。

谷本先生
筋肉は発熱器官ですので、筋肉量が増えれば冷え性も多少は改善される可能性はあります。ただし「ムキムキなら冷え知らず」とまではならないでしょう。

多田先生
完治は難しいですが、寛解導入・維持は可能です。早期に治療介入することで、抗リウマチ薬の減量、休薬が可能となる患者さんもいます。

食事と栄養に関すること

松本先生
プロテインは大きく分けて、牛乳など動物性タンパク質由来の「動物性プロテイン」と、大豆など植物性タンパク質由来の「植物性プロテイン」の2種類があります。筋肉量も体重も増やしたい方は「動物性プロテイン」を、体重は増やしたくないけれど筋肉量は維持したい方は「植物性プロテイン」を選んでいただくのがよいと思います。

松本先生
基本的には自分の体重で必要タンパク質量を計算してください。ただし、やせすぎの方や肥満の方は、標準体重[身長(m)×身長(m)×22]で計算してください。
自分の体重、または標準体重に1.2~1.5を掛けると、1日に必要なタンパク質量が算出されます。

松本先生
タンパク質量は100gあたり牛乳3.3g、豆乳3.6g、調整豆乳3.2gであり、牛乳と豆乳に大きな差はありません。一方で、カルシウムは100gあたり牛乳110mg、豆乳15mg、調整豆乳31mgであり、牛乳のカルシウム量が多いことがわかります3)。このため、タンパク質摂取を目的にする場合は、牛乳と豆乳のどちらでも良いと思われますが、カルシウム摂取を目的にする場合は、牛乳の方が効率良く摂ることができます。

松本先生
腹痛、下痢などいわゆる「お腹を壊す」原因は数多くありますが、食品や栄養素を体内でうまく消化・吸収できないことがお腹を壊す原因になることが多くあります。
例えば、乳製品を摂って下痢をする人の多くは、乳糖という乳製品に多く含まれる糖を腸でうまく分解できないために、お腹を壊します。タンパク質含有量が比較的多い肉でも、脂身つきのロース肉など比較的脂肪分の多い食品や、いかやたこなど消化の悪い食品を多く摂ると、消化に時間がかかり、お腹を壊す原因になり得ます。また、納豆やヨーグルトなどを多量に摂ると、腸の環境が変わりお腹を壊す場合があります。
これらは胃や腸の消化・吸収能や腸内環境、その日の体調などの個人差によるところが大きいため、一人ひとりにあった食品を探していただくしか方法がありません。そのため、「お腹に優しいタンパク質を含む食品」はお一人ずつ違うとお考えください。
ただ、消化・吸収を考慮すれば、肉であれば脂が少ない赤身を選ぶなどの工夫ができると思います。調理の際は、揚げる、焼くなど油を多く使う調理法よりも、煮る、茹でる、蒸すなど、油を使わない調理にすれば消化にかかる時間が短くなると考えられます。同じ食材でも柔らかく煮るなど調理方法を工夫することでも、消化しやすくなるでしょう。

運動に関すること

多田先生
それぞれの患者さんの状態にあった運動を行うことが大切です。関節破壊が進行している患者さんには関節に負担のかからない運動を、痛みや関節変形がない患者さんには活動量の多い運動をすすめています。ご自身の関節の状態はレントゲン検査などで確認できますので、どの程度の運動が適しているのか、主治医の先生とよく相談してください。

松本先生
あまり運動ができない患者さんは、食事を調整して体重を減らします。タンパク質量は維持したまま、摂取エネルギー量を減らすと、筋肉量はあまり減らずに体重が減少すると思います。食生活を見直し、炭水化物や脂質を減らすようにしましょう。

谷本先生
人工関節が入っている患者さんは、まず、主治医の先生に相談、確認したうえで実施してください。今回ご紹介したスロースクワットは、人工股関節の患者さんでも行いやすい運動だと思います。
人工股関節の患者さんでは、脱臼しにくい運動を行うことと、脱臼しにくくなるような筋肉をつけることが重要になります。この2つを満たす運動の一例として、足を前後に開いて行う「スプリットスクワット」や足を閉じて行う「ナロースクワット」があります。ナロースクワットは椅子などにつかまって行うと体が安定して行いやすくなります。

多田先生
人工股関節の患者さんでは、脱臼しやすくなる動作や姿勢がありますので、そういう動作や姿勢が含まれない運動を行うようにしてください。また、肘に人工関節が入っているケースにおいては、人工肘関節の種類によって負荷をかけすぎると破損するタイプもあります。体重にもよりますが、積極的にはおすすめできません。主治医の先生に一度相談してみてください。

谷本先生
対策の一つとして、関節への負担を減らすよう手首にサポーターをつけるのもよいと思います。サポーターをつけて、痛みの状況をみながら、無理のない程度に行ってください。

多田先生
筋肉をつけると関節への負担も少なくなります。トレーニング方法を工夫し、関節を保護しながら筋肉を鍛えることが大切です。

谷本先生
種目にもよりますが、ストレッチは比較的、関節への負担が少ない運動です。まずはストレッチをやってみて、痛みを感じるならその種目は行わない、もしくは姿勢や向き変えて痛くないフォームを探すのがよいと思います。痛みを感じたからストレッチをやめてしまうのではなく、痛みのないストレッチを探して続けることが重要です。

谷本先生
好きなだけやっていただいて大丈夫だと思います。ただし痛みが激しく出る場合はお控えください。

谷本先生
関節の痛みを和らげてくれるストレッチはあまりないのですが、痛みのない範囲で関節をよく動かすとよいと思います。

多田先生
関節内に関節液という液体があり、関節の動きをスムーズにしたり、軟骨に栄養を与えたりする役割を担っています。関節を動かすとこの関節液が循環するので、可動域(関節を動かせる範囲)をめいっぱい使って動かすようにしましょう。

多田先生
関節リウマチ患者さんの中には、膝や股の関節に障害があったり、変形性関節症を合併している方もいます。関節の状態は患者さんによって異なりますので、主治医の先生にウォーキングをしても問題ないかを確認したうえで行うようにしてください。

谷本先生
しっかりと1セット、できたら2セットやってください。あまりセットを増やすと質が下がりますので、多くても3セットまででよいと思います。

谷本先生
スロートレーニングは関節への負担が小さい運動です。日常の立ち座りができていればできるかと思います。ただし、痛みのない動作範囲内で行なってください。

【参考】

  1. 1)日本リウマチ財団. リウマチ情報センター. 関節リウマチの症状.
    https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/rm400/symptoms1.html(2023年10月31日閲覧)
  2. 2)Sugihara T, et al. Drugs Aging:2016(33):97–107.
  3. 3)文部科学省. 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年.
    https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html (2023年10月24日閲覧)